開業時に自宅の住所で法人登記を行うことにはさまざまなリスクがあり、そ
のひとつに「住宅ローン減税の問題」が挙げられます。
実は住宅ローン減税は「居住用の土地・建物のみを対象とした減税制度」で
あり、事業用の土地・建物は対象外となります。もしも居住用として住宅
ローンを組んで購入した物件の場合、居住用としての利用比率によっては契
約違反になる恐れがあるため注意が必要です。
そこで、今回は「法人登記と住宅ローン減税の問題」に焦点を当て、住宅
ローン減税の概要や契約時の注意点、住宅ローン減税が対象外となるケース
について解説します。さらには、自宅を法人登記できずにお困りの方へおす
すめしたい「バーチャルオフィス」のメリットも合わせてご紹介します。
まずは、住宅ローンの減税制度に関する基礎知識を押さえておきましょう。
住宅ローン減税とは正式名称を「住宅借入金等特別控除」といい、住宅ロー
ンを組んで住宅を購入した場合に税金を減税してもらえる制度です。具体的
には毎年末の住宅ローン残高、あるいは住宅の購入対価のうちいずれか少な
いほうの金額の1%が、最⾧10年間、最大で400万円分所得税等から控除されま
す。また、所得税から控除しきれない場合は、住民税からも一定の金額分の
控除を受けられる仕組みです。
税負担が軽減される大変うれしい制度ですが、住宅ローン減税はすべての
ケースに該当するわけではありません。対象となるのは居住用の土地・建物
のみで、事務所として使用している場合は減税の対象外となっています。
住宅ローンの契約には、「居住用でなくなった場合は期限の利益を喪失す
る」と記載されていることが多いです。そのため、住宅として購入する前提
として住宅ローンを契約した場合、無断で店舗・事務所に変更すると契約違
反となるため注意しましょう。
そうなると住宅ローン減税が受けられなくなる恐れがあるだけでなく、「融
資金の全額を返金」といった措置を求められます。
たとえば住宅ローンの一種である「フラット35」にも、以下の記載がありま
す。
無断で融資住宅を店舗・事務所に変更しますと機構(旧公庫)とお客様との 間で取り交わした契約に違反することとなり、融資金の全額をお返しいただくことになりますので、ご注意ください。
ただし、「住宅の一部分を店舗や事務所として利用する」場合、条件を満た
せば住宅部分の建設費または購入価額が借入れの対象となります。具体的な
条件は以下をご確認ください。
1.住宅部分の床面積が全体の2分の1以上であること
2.店舗や事務所の部分は、申込者本人または同居者が生計を営むために自己使
用するものであること
※「店舗や事務所の部分」とは、会社の事務所・日用品販売店・食堂・理容
院・クリーニング店・学習塾などのこと
※「自己使用」には、申込者本人または同居者が経営する法人に無償で貸し
付ける場合を含む
3.「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」との間が壁や建具などで区画されて
おり、原則として相互に行き来可能な建て方であること
4.「住宅部分」と「店舗や事務所の部分」をひとつの建物として登記できるこ
先述のように、住宅ローン減税を受けられるのは居住用の土地・建物のみで あり、事務所として使用している分は減税の対象外です。では「自宅兼オ フィス」として使用したい場合はどうなるのか、ここでは住宅ローン減税が 対象外となるケースを押さえておきましょう。
〇新築の場合
・登記簿上の床面積が50平米に満たない場合
・床面積の2分の1以上の部分が居住用になっていない店舗併用住宅等
〇中古の場合
・登記簿上の床面積が50平米に満たない場合
・床面積の2分の1以上の部分が居住用になっていない店舗併用住宅等
・築年数が21年以上の木造住宅や、築年数26年以上のマンションなどの耐火
建築物
自宅兼オフィスの場合に注意したい点は、「居住用の利用比率」です。上記
のように床面積の2分の1以上が居住用になっていないと住宅ローン減税の対
象外になるため、これから自宅で開業しようとお考えの方はぜひ参考にして
ください
住宅ローン減税は「10年間で最大400万円還付」という手厚い制度であり、対
象外となると大きな痛手です。とはいえほかで事務所用の物件を借りるとな
ると敷金・礼金といった費用がかかるため、登記先住所をどうしようかとお
困りの場合もあることでしょう。
そんな時におすすめしたいのが、住所をレンタルできる「バーチャルオフィ
ス」です。実際にスペースを借りるわけではないことから、賃貸物件を借り
る場合と比較すると大幅に費用を抑えられます。
なかには住所だけでなくFAX番号や会議室もレンタルできるなど、付帯サービ
スが充実しているバーチャルオフィスも存在します。「賃貸物件を借りずに
少ない資金で開業したい」とお考えの方は、ぜひバーチャルオフィスを検討
されてはいかがでしょうか。
居住用目的で住宅ローンを組んで購入した物件の場合、居住用としての利用
比率によっては契約違反になる恐れがあります。また、住宅ローン減税の問
題以外にも「物件オーナーとの問題」や「管理規約の問題」といったさまざ
まなリスクがあるため、自宅を登記先住所として利用することは避けるほう
がよいでしょう。
ぜひバーチャルオフィスの利用も視野に入れながら、自宅兼オフィスでの開
業準備をスムーズに進めていきましょう。