バーチャルオフィスには、大きく分けて「オーナー直営の自社所有運営」と「賃貸借契約」の2タイプの運営スタイルが存在します。とはいえ一般的には「賃貸借契約」のほうが主流であるため、少数派の「自社所有運営」タイプに不安を感じる場合や、どちらを選べばいいのかとお悩みのケースもあることでしょう。
そこで、今回はバーチャルオフィスの運営スタイルに焦点を当て、「自社所有運営」と「賃貸借契約」の違いについてまとめました。また、賃貸借契約におけるカスタマープラスの閉鎖事例をご紹介しながら、自社所有拠点のバーチャルオフィスを選ぶメリットを詳しく解説します。
まずは、バーチャルオフィスにおける「自社所有運営」と「賃貸借契約」の違いについて押さえておきましょう。
自社所有運営のバーチャルオフィスの場合は、運営会社が所有している物件(ビル一棟やフロア、一室など)を使って運営されています。自社所有運営タイプのバーチャルオフィスは希少であり、カスタマープラスもそのひとつです。
賃貸借契約のバーチャルオフィスの場合は、運営会社が借りた物件まるごと、あるいは借りた物件の一部(フロアや一室)を使って運営されています。現存するほとんどのバーチャルオフィスがこのタイプです。
バーチャルオフィスには上記のような2タイプの運営方法があるものの、会員企業とバーチャルオフィス運営会社とが契約を結ぶスタイルは共通しています。そのため、「会員にとってはどちらでも同じなのでは?」と思う方もいるでしょう。
しかし、賃貸借契約には自社所有運営にはない「拠点の閉鎖リスク」があり、契約途中でバーチャルオフィスを利用できなくなる可能性がある点に注意が必要です。
たとえば以下のような理由でオーナーの環境が変化した場合、会員企業に移転のリスクが生じます。
・ビルの老朽化による建て替え
・オーナーの変更(オーナーの高齢化など)
・近隣エリアの再開発
バーチャルオフィス運営会社が物件から退去する際は、会員企業は別のバーチャルオフィスを探して新たに契約しなければなりません。その際は退去に伴う移転・登記費用がかかるほか、名刺の変更や税務署・年金事務所等の公的機関への変更手続きといった手間もかかります。
なお、退去に伴う移転・登記費用としては主に「代行手数料」「印紙代」「新しい謄本の発行費用」が挙げられます。たとえば移転登記先が同じ区内の場合は60,000円~80,000円程度、移転登記先が別の区にある場合は90,000円~110,000円程度かかるケースが一般的です。
実はカスタマープラスは、過去に賃貸借契約にてバーチャルオフィスを運営しておりました。しかし、上記でご紹介した「拠点の閉鎖リスク」に悩まされた経緯があり、現在は自社所有運営でサービスを提供しております。
ここでは、実際にあったカスタマープラス運営拠点の閉鎖事例を3つご紹介します。
建物オーナーA様/ 旧管理会社B社/ 新管理会社C社
建物オーナー様は、高齢の個人の男性でした。元気でしっかりした良い方でした。
管理会社B社には、当方の会社概要・ホームページ・登記簿謄本を説明し、具体的にどのような会社で、商売でということを説明し、賃貸借契約を結びました。
契約後、2年経過し、更新をしました。4年後も2回目の更新をしました。6年後、3回目の更新をしました。業務も順調で、近所にお住いの建物オーナー様にもご挨拶を頻繁にし、良好な関係でした。
ただ、3回目の更新を終えたあとに、管理会社B社の担当者が、管理会社B社を辞めるという挨拶に来ました。そして、今後は建物オーナーのご親族(娘さん)の管理会社C社が担当するということでした。
であれば、弊社から、現状の弊社の説明を差し上げたいと、連絡を複数回打診しましたが、結果、実現しませんでした。
最初の契約から8年が経過する直前に、突然、内容証明の文章が知らない弁護士から届きました。『法廷措置も辞さない。出て行ってくれ』という内容でした。
コミュニケーションの損失は明らかでしたが、こちらも落ち度をなかなか認められず、当方の弁護士を通じて複数回話し合いを持ちました。裁判になる直前まで話し合いましたが、2年間の猶予期間をもって退去することになりました。
ビルのオーナー様の代替わりで、管理会社の考え方が変わってしまった事例でした。
バーチャルオフィスは法律に一切、触れるようなビジネスではありません。自信をもって説明をし、理解をしてもらっていた自負もあります。ただ、8年の時間を過ぎ、周囲も変節します。2021年のオリンピックの開催など、東京はどんどん変わっていきます。
この拠点の閉鎖の悔しさが、弊社を自社で保有し自社で運営する安定した会員様に安心を与えられる拠点作りのバーチャルオフィスを目指すきっかけになりました。
旧管理会社A社/ 建物オーナーB社/ 新管理会社C社
カスタマープラスは管理会社A社を通じて、建物オーナーB社と賃貸借契約を結びました。
その際、登記簿謄本と会社案内書とHP(写し)を提出し、建物オーナーB社にも弊社オフィスに来社いただきました。弊社の業態は理解され普通賃貸借契約が締結されたと認識していました。
2年後の更新タイミングで、管理会社A社より『建物オーナーB社はカスタマープラス社のビジネス内容のことを快く思っていないようだ』という伝言がありました。
管理会社A社経由で、弊社の運営姿勢と業態理解を再度求めて説明をし、建物オーナーB社に伝えていただきました。結果、契約更新もできたので、建物オーナーB社側も弊社の姿勢を理解していただけたのかと安心をしていました。さらに次の2年後の契約更新も問題なく行われました。
最初の契約から数年が経ち、建物オーナーB社より管理会社をA社からC社変更した旨の連絡がありました。弊社は、これまで管理会社A社にしてきた同様の説明(弊社の運営体制・管理体制)を新・管理会社C社にも再度行いました。正直な気持ちとしては、これまでの経過を理解して頂いていたので管理会社A 社とは信頼関係が築けていましたが、新たに建物管理会社C社とも信頼関係を築く努力が必要だとの認識でした。
翌年、建物オーナーB社から次回以降の更新はしないと連絡が管理会社C社経由で連絡が入りました。
管理会社C社に訪問し、これまでの経緯を再度しっかり説明しましたが、建物オーナーB社は交渉人として弁護士をたて、退去訴訟を前提とした内容証明文章を弊社側に送ってきました。弊社側も弁護士をたて、交渉を重ねました。交渉の過程で、当方の弁護士の裁判の結果情勢は、『裁判所に判断を委ねた場合、判決の結果予想は五分五分です。万一、結果がカスタマープラス側の負けになった場合は、即日退去になります。』ということでした。
結果五分五分の判断理由は、当方の弁護士の経験則によるものでしたが、契約経過と現状から考えると、双方の言い分も理解でき、双方悪質性もないという場合、裁判所は、判決を出す前に、一定期間の猶予をもって退去を勧める(いわゆる和解勧告)ことが多いということ。そのうえで和解を受け入れず、裁判で黒白の結果を求めた場合でも勝てる確率が100%ではない。という趣旨でした。
弊社としては、もちろん経過を考えれば、勝てると考えていましたが、万が一でも負けることがあれば、意味することは、『即日退去』であり、会員様にも、いきなり『本日で閉鎖です、すぐ出てください。カスタマープラスも本日で退去します。』という案内をしなければなりません。それはリスクが大きすぎると判断しました。
普通賃貸借契約を結べば借家側が強いという認識は持っておりましたし、当方の弁護士もそれは認めておりましたが、裁判になってしまった場合は、どうしても100%の勝訴の結果は確信をもって予想することはできない。ということでした。
そこまでのリスクを弊社が負うのは危険すぎると考えました。また、仮に、裁判で勝ったとしても、これだけ建物オーナーB社側と確執が表面化してしまったため、その後も良い関係でサービス運営は厳しいということも判断のひとつでした。借りている側は、運営上、多くの制限があり、何につけても貸主(今回は、建物オーナーB社)の承諾を必要とします。その信頼関係が壊れてしまったら多くの不便と支障が今後のサービス運営に出てくることは予想できましたので、双方折り合える最⾧の猶予期間を持って退去に至りました。
⾧年、建物オーナー様に対して影響力を持っていた管理会社Aさんが、高齢で引退することになり、管理会社C社に変更しました。管理会社が変更になって以降、建物オーナーB社は高圧的になり、関係性が悪化しました。
契約上は、⾧年の実績もあり、弊社としての落ち度はなかったと今は考えています。しかし、建物オーナーとの信頼関係が崩れると、バーチャルオフィス運営は、破綻します。
【建物オーナーとの良好関係は、未来永劫ではない】と痛感しました。
建物オーナーA社
こちらの拠点も通常通り、会社概要と業務内容(サイトURLを含む)を開示し審査を通過した後に、建物オーナーA社と賃貸借契約を結びました。すでに他のオフィスを運営しておりましたので、会社URLを見てもらうことで十分理解いただけると考えていました。
もちろん、弊社の事業概要、登記簿謄本、これまでの活動などを説明差し上げ、契約を結びました。
契約してから2年後、建物オーナーA社から、弊社に直接、『カスタマープラスの会員企業さんに本ビルにて法人登記をしてもらいたくない』という意向が伝えられました。インターネット上で1か所の住所に対して、複数の会員様の名前が列挙される現実に、不安を募らせたという事でした。
バーチャルオフィスという性格上、会社登記を許すために、当該会員様のURL が同じ住所になる現実はあります。
建物オーナーA社に、弊社の運営体制や管理体制の理解を求め、数回の協議を重ねた結果、『新規募集をしない条件であれば継続もやむなし』という回答を得ました。運営上のトラブルも一切ありませんでしたので、残念でした。会員様からは、『法的措置を取り、対抗できないのか?』といった質問もありました。当然、弊社の顧問弁護士には複数回事情を相談し、訴訟の検討もしました。しかし、バーチャルオフィスの運営上、多くの場合は建物オーナーの十分な理解がなければ、本当に大変です。会員様にも迷惑が掛かります。サービスの品質が落ちてしまうのです。
新規募集ができない状態のままその後、数年間、継続契約してまいりましたが、対象拠点の会員様も減り続け、対象拠点の経営赤字を他の拠点で埋めるには限界になったことで閉鎖を決断致しました。
当該拠点の会員様には、十分な移転または解約の告知期間を設定し、驚かれた会員様も当然いましたが丁寧な説明と経緯説明を差し上げ、社内他拠点の移転・解約となりました。
カスタマープラスは、契約時にバーチャルオフィスの業務内容(住所の利用)を説明し、
契約を結んでいます。建物オーナーは、ネット上に複数の会社の存在が出てくるようになるとは考えていなかったようです。
きちんと説明してもバーチャルオフィスという業態を完全には理解してもらえず、結果、一つの不安材料が増大し、運営会社への不信に繋がったようです。【建物オーナー様には、バーチャルオフィスの本当の意味は伝わるわけがない】これが本音です。
賃貸借契約のバーチャルオフィスには「拠点の閉鎖リスク」があるため、⾧期的な利用を検討している方には自社所有運営のバーチャルオフィスがおすすめです。ここでは、自社所有拠点ならではの主なメリットを3つチェックしていきましょう。
自社所有拠点であれば「バーチャルオフィス運営会社=ビルオーナー」のため、拠点の閉鎖リスクは基本的にはほとんどありません。⾧期的な利用を見込めるため、安心感がある点が大きなメリットです。
許認可申請先の住所として利用できることも、賃貸借契約のバーチャルオフィスにはないメリットです。
始める事業によっては「許認可申請」を行う必要があり、申請時には必要書類として「賃貸借契約書」が求められる傾向があります。賃貸借契約書を用意できない場合は物件オーナーが発行する「使用許諾書」が必要ですが、賃貸借契約のバーチャルオフィスの場合は契約者と運営会社との関係が直接的な賃貸契約ではないため、「使用許諾書」を用意できないケースが多くみられます。それに対して自社所有運営のバーチャルオフィスであれば、契約者と運営会社との関係が直接的な賃貸契約であるため、「使用許諾書」の発行が可能です。そのため、許認可申請をスムーズに行いたい方には自社所有運営のバーチャルオフィスが向いています。
※旅行業や人材派遣業など、許認可申請できないケースもあります。
社労士・弁護士・弁理士といった士業を行う場合も、法人登記申請時に「賃貸借契約書」または物件オーナーによる「使用許諾書」を提出する必要があります。自社所有運営のバーチャルオフィスであれば「使用許諾書」の発行が可能なため、士業の住所として利用したい方にも最適です。
※税理士や行政書士など、申請先として利用できない業種もあります。
バーチャルオフィスの運営スタイルには、「自社所有運営」と「賃貸借契約」と2タイプがあります。利用料金やサービス内容だけをチェックするのではなく運営スタイルにも注目することで、自分に合ったサービスを判断しやすくなるでしょう。
「⾧く利用できるような安定感のあるサービスを選びたい」とお考えの方は、ぜひ自社所有運営のバーチャルオフィスに注目してみてください。