法人の設立にあたり、「NPO法人」について気になっている方もいるのではないでしょうか。NPO法人は「特定非営利活動法人」と呼ばれる法人団体のひとつですが、具体的にどのような法人でほかの法人とはどう違うのか、NPO法人の形態を選ぶことによってどのようなメリットがあるのかなど、詳細をご存知の方は少ないかもしれません。
そこで、今回はNPO法人の特徴やメリット・デメリット、設立手順などの基礎知識を解説します。また、費用を抑えてNPO法人を設立したい方におすすめしたい「バーチャルオフィス」 の魅力についても詳しくまとめました。
NPO法人への理解を深めて、ぜひご自身の法人設立準備にお役立てください。
NPOとは「Non-Profit Organization」の頭文字をとったもので、日本語では「非営利団体」と表現されます。利益ではなく社会的な目的や使命を達成することを目的として活動する団体のことで、株式会社や合同会社などと同じ法人団体の一種です。
なお、「非営利」と聞くと「お金を稼いではいけない」といった意味で解釈される方もいるかもしれませんが、NPO法人も収益を上げることは可能であり、そこで働いている人たちには報酬が支払われます。あくまで収益を私的に配分せず、公的な使命に応じた事業を行う団体であることがNPO法人の特徴です。
次に、NPO法人と一般企業・一般社団法人の違いを押さえておきましょう。
非営利活動を行うNPO法人に対し、一般企業は営利目的で活動します。たとえば株式会社におけるミッションは「得た利益を株主や団体の構成員に分配すること」にありますが、NPO法人の場合は「地域社会への貢献による社会的利益の獲得」が主なミッションです。
一般社団法人も非営利活動を行う団体ですが、NPO法人とは「活動内容の制限度合い」が大きく異なります。というのも、NPO法人は非営利活動の中でも活動内容が制限される「特定非営利活動」を行う団体であり、具体的には以下の20分野のみに活動が制限されています。
1.保健、医療又は福祉の増進を図る活動
2.社会教育の推進を図る活動
3.まちづくりの推進を図る活動
4.観光の振興を図る活動
5.農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動
6.学術、文化、芸術又はスポーツの振興を図る活動
7.環境の保全を図る活動
8.災害救援活動
9.地域安全活動
10.人権の擁護又は平和の推進を図る活動
11.国際協力の活動
12.男女共同参画社会の形成の促進を図る活動
13.子どもの健全育成を図る活動
14.情報化社会の発展を図る活動
15.科学技術の振興を図る活動
16.経済活動の活性化を図る活動
17.職業能力の開発又は雇用機会の拡充を支援する活動
18.消費者の保護を図る活動
19.前各号に掲げる活動を行う団体の運営又は活動に関する連絡、助言又は援助の活動
20.前各号に掲げる活動に準ずる活動として都道府県又は指定都市の条例で定める活動
引用:内閣府NPO「特定非営利活動(NPO法人)制度の概要」
https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo-kisochishiki/nposeido-gaiyou
一方、一般社団法人の場合は上記のような強い制限はなく、社会貢献を目的とした幅広い活動が可能です。
続いては、NPO法人を設立する魅力に注目してみましょう。主なメリットは以下の通りです。
NPO法人は資本金0円で設立できるほか、登録免許税といった会社設立時にかかる諸費用も発生しません。必要な費用としては法人の印鑑を作成する費用や役員の住民票を請求する費用程度で、数十万円の初期費用がかかる株式会社と比較すると大幅に費用を抑えて設立できます。
NPO法人には原則として法人税がかからないため、一般的な企業と比較すると税率が低いことも大きな魅力です。また、自治体によっては住民税の均等割りが免除される場合もあるほか、法人団体加入の入会金や会費などが非課税になるといった税制優遇もあります。
NPO法人は厳しい審査をクリアした団体のみが設立できること、さらには事業報告書を毎年公開する義務があるなど透明度の高い経営体制であることから、世間からの社会的信用度は非常に高いです。地域やサービス利用者からの信頼を獲得しやすいことで、活動を優位に進められるメリットがあります。
NPO法人は地域社会への貢献を目的として活動しているため、国や地方公共団体などから協力を得やすい傾向があります。そういった公的機関と連携することによって、自分たちだけで活動するよりも大きな規模での事業展開が可能となるでしょう。
近年はNPO法人を対象とした支援制度が充実しており、補助金・助成金の活用によって経済的にゆとりを持って活動できることもメリットのひとつです。なお、補助金や助成金は金融機関から受ける融資とは異なり、返済義務はありません。
上記のような利点がある一方で、NPO法人の設立にはデメリットも存在します。ぜひ以下の点に注目し、メリット・デメリットを比較しながら慎重に検討するとよいでしょう。
先述のように、NPO法人の活動分野は20分野に限定されています。それ以外の非営利活動は行えないため、希望する事業内容が該当しない場合はNPO法人以外の法人形態を検討する必要があります。
一般企業であれば、申請から1~2週間程度で設立できます。それに対してNPO法人の場合は申請書類の準備だけでも1か月程度かかるほか、定款の作成には2か月程度を要し、申請後の審査にも比較的時間がかかりやすいです。
最短でも3か月ほど、⾧くて1年程度かかることを想定し、ゆとりを持って設立準備を進める必要があります。
NPO法人の場合は以下のような書類を毎年作成し、管轄の都道府県庁または内閣府へ提出して認証を受けなければなりません。また、年に1回は社員総会を開催して事業や決算の報告および事業活動の内容説明を行う必要があり、一般企業に比べて運営に手間がかかります。
ここでは、NPO法人の設立条件と具体的な手続き手順をまとめました。ぜひ参考にしてみてください。
NPO法人は、以下の8つの条件を満たした場合に設立可能です。
・特定非営利活動を主たる目的とする
・営利を目的としない(団体の構成員に対して収益を分配したり財産を還元したりすることを目的としない)
・主たる目的が宗教活動や政治活動ではない
・10人以上の社員を有する
・社員の資格の得喪に関して、不当な条件を付さない
・特定の公職者または政党を推薦、支持、反対することを目的としない
・報酬を受ける者の数が、役員総数の3分の1以下
・暴力団または暴力団、もしくはその構成員の統制下にある団体ではない
上記項目においてひとつでも該当しないものがある場合は基準をクリアできず、設立不可となってしまうため注意しましょう。
NPO法人は、基本的に以下の手順で設立手続きを進めます。
まず、先述した特定非営利活動の20分野に該当しているかどうかを確認します。
「設立発起人会」を開催し、以下の事項を決定します。
・NPO法人の名称
・代表者
・設立趣旨
・活動目的
・事務所の所在地
・会員
・設立までのスケジュール など
社員全員で設立総会を開催し、2で定めた内容の最終的な意思決定を行います。次のステップにて意思決定の照明記録が必要となるため、総会の内容は議事録にまとめておきましょう。
事務所設置場所を管轄する所轄庁へ、設立総会の議事録や設立認証申請書、定款、役員名簿などを持参します。
認証後に届く「認証書」を事務所設置場所管轄の所轄庁に持参し、「NPO法人設立登記申請」の手続きを行います。認証書の交付を受けた日から2週間以内に完了する必要があるため注意が必要です。
収益事業を行う場合は、税務署・都道府県税事務所・市町村の税金担当窓口へ出向いて「法人設立届出書」や「収益事業開始届出書」などを提出する必要があります。なお、収益事業を行わない場合は、都道府県税事務所と市町村の税金担当窓口に「法人設立届出書」を提出するのみで手続き完了です。
NPO法人の設立時には「事務所の所在地」を申請する必要がありますが、賃貸オフィスを借りるとなると高額な費用がかかります。そこで、もし個人での活動がメインの場合や「なるべく費用を抑えて設立したい」とお考えの場合はバーチャルオフィスの利用を検討するとよいでしょう。
バーチャルオフィスとは登記申請可能な住所をレンタルできるサービスで、主に以下のようなメリットがあります。
バーチャルオフィスを利用する最も大きなメリットが、大幅なコストカットが叶うことです。
賃貸オフィスを借りて活動する場合は、毎月数十万円程度の家賃をコンスタントに支払い続ける必要があるほか、契約時に家賃6か月~1年分ほどの初期費用がかかります。一方、バーチャルオフィスの場合は月額利用料が数千円程度、初回契約時にかかる費用も5,000円~10,000円程度であり、賃貸オフィスを設けるよりも圧倒的に少ない資金で事務所所在地を確保できます。
バーチャルオフィスを利用すると、自宅兼オフィスでの活動を予定している場合にビジネス用住所と自宅住所をしっかりと分けられることもうれしい魅力です。同じ住所で申請した場合は自宅の引越し時にNPO法人の所在地の変更手続きを行う手間が生じますが、別々にしておけばその必要はありません。
また、自宅が賃貸物件の場合は「事業用としての住所利用は不可」といった規約が定められていることが多いため、そういった場合もビジネス用住所を手軽に借りられるバーチャルオフィスは非常に便利な存在です。
自宅の形態によっては登記時に使用可能な場合もありますが、自宅住所で登記を行うと「プライバシーのリスク」がある点に注意する必要があります。登記時に事務所所在地として申請した住所は公開情報に指定されており、インターネット上で誰でも閲覧可能な状態となってしまうためです。
バーチャルオフィスを利用すれば「バーチャルオフィスの住所」が事務所所在地になることから、自宅住所が不特定多数の人に知れ渡る恐れはありません。より安全性の高い環境で、安心感を持ってNPO法人としての活動を進められます。
NPO法人とは「特定非営利活動法人」のことで、設立費用や税金を軽減できる、社会的信用度が高いなどのメリットがあります。ただし、活動内容が限定されるほか、設立までに時間がかかったり、手間がかかる事務作業が発生したりといったデメリットもあるため、良い点・懸念点の両方をしっかりと比較検討したうえで「自分に合っている法人形態か」を見極めることが大切です。
基本的には、起業を通じて社会貢献したい方、ボランティアとしての社会貢献活動に限界を感じている方などはNPO法人の設立に向いているでしょう。設立時にはぜひバーチャルオフィスの活用も検討し、コスト面・安全面に配慮した事業活動を目指してみてはいかがでしょうか。