老朽化したマンションの建て替え以外の選択肢として、近年注目を集める「マン
ション敷地売却制度」。建て替えに比べて区分所有者からの合意を得やすいなどの
メリットがある一方で、注意したいデメリットもいくつか存在するため、事前に
しっかりと把握したうえで利用することが大切です。
そこで、今回はマンション敷地売却制度の基礎知識や利用するメリット・デメリッ
ト、制度を利用した建て替えの流れについて詳しくまとめました。また、「自宅マ
ンションの住所で法人登記を行っているけれど、売却や建て替え等の可能性を考慮
して新たな登記先住所を探したい」とお考えの方に向けて、ビジネス用の住所を手
軽にレンタルできる「バーチャルオフィス」の特徴もあわせてご紹介します。
マンション敷地売却制度は、マンションの敷地を一括して買受人に売却し、区分所
有者等に分配金や補償金を配分する制度のことです。耐震性に問題のあるマンショ
ンの建て替えを促すことを主な目的として、2002年に公布・施行されました。
具体的には、1981年の建築基準法施行令改正よりも前に建築されたマンション(新
耐震基準を満たしていないマンション)の建て替え促進を趣旨としています。その
ため、対象となるマンションは耐震性の不足などの要件をクリアして「要除却認
定」を受けたマンションのみであり、単に老朽化したマンションが敷地売却制度を
利用することはできません。
なお、区分所有者等の5分の4以上の賛成を得られると区分所有関係の解消が可能と
なり、マンションとその敷地の売却を決議することが可能です。
マンション敷地売却制度と建て替えには、次のような違いがあります。
マンション敷地売却制度 | 建て替え | |
---|---|---|
耐震性に関する要件 | 要除却認定を受けたマンションのみ適用 | なし |
関係者の同意 | 区分所有者等の5分の4以上の賛成が必要 | 区分所有者等の5分の4以上の賛成 に加え、借家人や担保権者の同意 も必要 |
分配金 | あり(敷地を売却して得た金額が区分所有者に分配される) | なし |
建設される建物の用途 | 制限なし | 基本的には建て替え前と同じ用途に限る |
上記の通り、マンション敷地売却制度では売却によって得たお金が区分所有者に分
配されるため、区分所有者はその資金を新たな住まいへの移転費用に充てるケース
が一般的です。一方、建て替えはあくまで住環境改善のために建物を新築する方法
であり、敷地の所有権はそのまま区分所有者等が有することから、基本的に区分所
有者は建て替え後も引き続き居住することになります。
ちなみに建て替えには2年ほどかかるケースが一般的で、引越しや仮住まいの費用
は数百万規模になると考えられます。また、建て替えに伴う区分所有者の自己負担
額の目安は、1戸あたり1,000万円~2,000万円程度です。
続いて、マンション敷地売却制度を利用するメリット・デメリットに注目してみま しょう。
マンション敷地売却制度を利用するメリットは以下の通りです。
マンション敷地売却制度を利用する最大のメリットといえるのが、区分所有者の合
意形成を比較的容易に行えることです。区分所有者は売却後に別の住まいへ住み替
えることはもちろん、同敷地にマンションが再建される場合はそちらへ入居するこ
ともできるなど制約がないため、多くの合意を得やすい傾向があります。
一方、建て替えは区分所有者が再入居することを前提として行われ、再建に必要な
資金もそれぞれの区分所有者等が負担しなければなりません。こういった費用面が
ネックとなり、合意形成に手間がかかりやすいといわれています。
マンション敷地売却制度を利用して要除却認定を受けたマンションを再建する場合、 容積率の緩和特例を受けられる可能性があることも大きな魅力です。容積率の緩和 特例とは一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に効果があるとみなされ た建物の容積率制限が緩和される特定で、特定行政庁の許可を得られれば再建前よ りも大きな建物を建設できます。
一方、マンション敷地売却制度には以下のようなリスクがある点に注意が必要です。
先述のように、マンション敷地売却制度を利用できるのは特定要除却認定を受けた マンションのみです。特定要除却認定の要件には「耐震性不足」や「火災に対する 安全性の不足」「外壁等の剥落などにより周辺へ危害を及ぼす恐れ」などがあり、 専門家の調査を経て認定されなければマンション敷地売却制度を利用することはで きません。
マンション敷地売却は複雑かつ大規模な事業であることから、都道府県知事から認 定された事業者のみが買受人となって敷地売却を実行できます。また、買受人決定 後に別の事業者へと変更することはできない点にも注意しましょう。
マンション敷地売却制度を利用する場合、売却後は買受人が新たな土地利用計画を 策定します。元の区分所有者住民がその計画に関与することはできないほか、新し いマンションへの入居を希望する場合は個別に改めて契約し直す必要があり、居住 できるかどうかの保障はありません。
ここでは、マンション敷地売却制度を利用する基本的なステップをご紹介します。
マンションの耐震診断等を専門家に依頼し、要除却認定を受けることが可能かどう かを判断します。
特定要除却認定の要件に適合する場合、まずは認定を受けることについて管理組合 の総会で決議します。また、管理組合はマンションの買受人(予定者)を選定し、 マンション敷地売却決議の前提となる買受計画を管轄の行政機関へ申請・許可を得 たうえで要除却認定を受けます。
行政から買受計画の許可と要除却認定を受けたら、マンションの区分所有者等を集 めてマンション敷地売却決議を行います。
区分所有者等の5分の4以上の賛成を得られたら、マンション敷地売却に関する各種 手続きを行うための「マンション敷地売却組合」を設立します。
マンション敷地売却決議の成立後、決議に賛成しなかった区分所有者を対象に参加 の意思確認を行います。それでも応じない区分所有者がいる場合、その権利はマン ション敷地売却組合が「売渡し請求」によって買い取ることになります。
マンション敷地売却組合は分配金取得計画を策定し、管轄の行政機関へ申請します。
分配金取得計画の許可を受けたら、いよいよマンション敷地売却の実行です。区分
所有者等はマンション敷地売却組合から分配金と補償金を受け取り、マンション敷
地売却組合に建物の所有権を譲渡します。
そして、マンション敷地売却組合が買受人にマンションと敷地の売却を行い、マン
ション敷地売却は完了です。
自宅兼オフィスで事業を行い、自宅マンションの住所で法人登記を行っている
場合、「マンション敷地売却制度が適用されたら登記先住所はどうなる?」と
不安を感じている方もいるのではないでしょうか。マンション敷地売却が実行
されたら登記先住所を変更する必要があるため、慌てることのないように「自
宅マンション以外の住所」で登記を行っておくとよいでしょう。
そこでおすすめしたいのが、登記可能な住所を手軽にレンタルできる「バー
チャルオフィス」です。バーチャルオフィスは住所や電話番号といった基本
的なオフィス機能が借りられるサービスです。
具体的には以下のようなメリットがあるため、自宅マンションの住所で登記を
行っている方はぜひ注目してみるとよいでしょう。
バーチャルオフィスの拠点は銀座や渋谷、新宿などの都心エリアに多く、信用 を得やすい一等地の住所をお手頃価格で入手できます。費用は運営会社によっ てさまざまですが、一般的には登録料が5,000円~10,000円程度、毎月の利用料 は数千円程度と賃貸オフィスよりも圧倒的にリーズナブルです。
登記先住所は公開情報に指定されているため、自宅の住所で登記した場合はそ の住所が不特定多数の人に知られてしまいます。しかし、バーチャルオフィス の住所で登記を行えば自宅の住所を公にする必要がなく、より安全にビジネス 活動を行うことが可能です。
バーチャルオフィスの運営会社によっては、オプションで会議室のレンタル サービスを提供しているところもあります。自宅兼オフィスの場合はクライア ントとのミーティング場所に悩みやすいため、会議室レンタルを利用できると 大変便利です。
耐震性や火災時の安全性などに問題があるマンションは、マンションの敷地を
一括して買受人に売却し、区分所有者等に分配金を配分する「マンション敷地
売却制度」を利用できる可能性があります。
利用するためには要除却認定を受ける必要があるため、利用を検討しているマ
ンションオーナーはまずは専門家へ建物診断等を依頼し、認定の可否を確認す
るとよいでしょう。また、制度の利用にあたっては区分所有者等の5分の4以上
の賛成が必要となることから、スムーズに合意を得るための準備をしっかりと
行うことも大切です。
なお、もし所有マンションの住所で法人登記を行っている場合は、事業用の住
所をリーズナブルな価格で利用できる「バーチャルオフィス」の活用をおすす
めします。自宅の住所とビジネス用の住所を分けておけば自宅の売却や建て替
え等によって登記先住所を変更する必要がないほか、自宅のプライバシーが脅
かされるリスクも回避でき、より安全かつスムーズにビジネスを遂行していけ
るでしょう。