日本に留学している外国人留学生のなかには、留学中の起業を検討している方もい
るでしょう。しかし、「そもそも留学中に起業できるのか」「起業するためにはど
のような準備や手続きが必要?」などとわからないことが多く、一歩を踏み出せず
にいるケースもあるのではないでしょうか。
そこで、今回は「外国人留学生の起業」をテーマに、ビザの情報や起業時の注意点
など、知っておきたい基礎知識をまとめました。また、日本で手軽にビジネス拠点
を設けたい場合に利用すると便利な「バーチャルオフィス」の魅力についても併せ
てご紹介します。
まずは、そもそも外国人留学生は日本での起業が可能なのかどうかしっかりと把握しておきましょう。
外国人留学生であっても、日本で会社を設立することは可能です。必要書類を作成
したうえで定款の認証を受け、法務局で登記申請するといった手続き手順も、日本
人が起業する場合とほとんど変わりません。
ただし、外国人留学生が所有している在留資格「留学」では、会社の設立自体はで
きても、会社の経営を行うことはできない点に注意しましょう。「留学」の在留資
格は日本の教育期間で学習することを前提に許可されているビザであり、在学中に
起業活動をすることは認められていないためです。
もし外国人留学生が会社を立ち上げ、経営にも関与したい場合は、在留資格を「経
営・管理」に変更する必要があります。
前述のように、基本的には「留学」のビザでは在学中に会社の経営管理を行うこと
はできません。しかし、入管(出入国在留管理庁)から「資格外活動許可」を取得
できれば、収入を伴う活動を週28時間の範囲内で行うことが可能です。
資格外活動許可を受ける条件については、以下をご確認ください。
・申請に係る活動に従事することにより、現に有する在留資格の活動が妨げられないこと
・現に有する在留資格に係る活動を行っていること
・申請に係る活動が入管法別表第一の一の表または二の表の在留資格で認められている活動であること(「特定技能」および「技能実習」を除く)
・申請に係る活動が法令違反や風営法に該当するものでないこと
・収容令書の発付または意見聴取通知書の送達もしくは通知を受けていないこと
・素行が不良でないこと
・本邦の公私の機関との契約に基づく在留資格に該当する活動を行なっている者に
ついては、当該機関が資格外活動を行うことについて同意していること
参考:資格外活動許可について|出入国在留管理庁
「留学」のビザで日本に滞在している外国人留学生が起業する際には、以下の点に注意することが大切です。
先述の資格外活動許可は、あくまで留学中に必要な経費を賄う目的で認められます。
そのため、会社経営を行って資金を稼ぎすぎてしまうと「目的を超えて活動をして
いた」あるいは「週28時間を守っていない」と判断され、資格外活動違反となって
しまう可能性がある点に注意しましょう。
違反していないかどうかの審査は、「留学」の在留資格を更新する際や、留学期間
を終えて「経営・管理」の在留資格へ変更する際などに行われます。資格外活動違
反と判断されると、経営管理ビザへの変更はもちろん、留学ビザの取り消しや更新
の不許可となり、会社経営どころではなくなってしまいます。
なお、会社経営にあたっては一般的なアルバイトの時給相場をはるかに超えた額を
稼ぐ可能性もありますが、その場合は週28時間を遵守していることを証明できる資
料を提示できれば問題ないでしょう。また、もし共同経営者がいて、外国人留学生
自身は経営には積極的に参画していない状況であれば、その説明も併せて行うこと
が求められます。
外国人留学生が「日本人の配偶者等」「定住者」「永住者」「永住者の配偶者等」 のいずれかの在留資格を得ている場合は、取締役に就任して活動することも可能で す。一方、「技術・人文知識・国際業務」「技能」といった活動に制限のある在留 資格を有する外国人留学生は、取締役として活動することは認められていないため、 ほかの人を取締役に任命する必要があります。
「留学」の在留資格を持つ外国人留学生が会社を立ち上げ、資格外活動としてでは
なく本格的に経営に関与したい場合は、起業後に在留資格を「経営・管理」に変更
することが求められます。
経営管理ビザを取得する主な要件は以下の通りです。
・500万円以上の資本金または出資額がある
・日本国内に実在する事務所を所有している
・経営または管理に関する経験を有している
経営管理ビザの在留期間は、5年・3年・1年・4か月・3か月のいずれかで設定され
ます。申請者の就労予定期間や希望する在留期間をベースに、事業の安定性や継続
性が考慮されて期間が決まる形です。
経営管理ビザに関する詳細は、入管の公式サイトにてご確認ください。
参考:在留資格「経営・管理」|出入国在留管理庁
在留資格「経営・管理」の取得にあたっては、以下の3点に注意が必要です。
・「留学」から「経営・管理」への変更は難しい
・資本金・出資額の「500万円」の出所が厳しくチェックされる
・起業の準備期間中に「特定活動ビザ」へ変更できる場合もある
具体的な注意点について、以下で詳しく見ていきましょう。
多くの外国人留学生はビジネス経験を有していないことから、「留学」から「経
営・管理」の在留資格への変更は難しいといわれています。経営管理ビザは、「安
定した事業を継続的に行っていける」と判断された場合のみ許可されるためです。
もし急いで起業しなければならない確固たる理由がなければ、留学期間を終え、一
度社会人経験を積んでからチャレンジするほうが起業しやすいでしょう。もし「す
ぐに日本でビジネスを行いたい」という場合は、明確なビジネスプランを立案し、
綿密な事業計画書を提出して入管を納得させることが重要です。
経営管理ビザの取得条件のひとつに「500万円以上の出資」がありますが、審査に
あたってはその資金をどのように調達・準備したのかが重要視されます。特に、
「資格外活動許可の範囲を超えたアルバイトで稼いだ500万円が元手となっていな
いか」が厳しくチェックされ、もし資格外活動違反と判断された場合はビザを取得
できません。
また、500万円を人から借り受けている場合は「きちんと返済できるのか」が注目
されるため、細かな返済計画を立てて提示する必要があります。
上記のように「留学」から「経営・管理」の在留資格への変更は難しい傾向があり ますが、条件さえ満たせば教育機関卒業後に「特定活動」の在留資格へ変更し、起 業・経営を行える可能性があります。特定活動ビザへの変更が許可されるケースは 以下の通りです。
大学または大学院を卒業した外国人留学生が卒業後6か月以内に起業の準備を行う
場合、以下の要件を満たせば「特定活動」の6か月ビザへの変更が認められます。
・在学中に良好な成績と素行を示し、大学から起業活動の推薦を受けていること
・事業用の事務所や店舗が既に確保されているか、その確保が見込めること
・明確かつ実現可能な事業計画書を作成し、会社設立に向けた具体的な準備を行うこと
・起業に必要な資金を確保し、従業員の雇用計画を立てること
なお、起業後は出身大学または大学院が進捗を把握できるよう、定期的に大学・大
学院へ活動状況を報告することが求められます。
詳細は入管の公式サイトをご覧ください。
参考:本邦の大学等を卒業して起業活動を行うことを希望する方|出入国在留管理庁
在学中の大学または大学院が「留学生就職促進プログラム」の採択校や参画校、あ
るいは「スーパーグローバル大学創成支援事業」の採択校に該当し、在籍中から起
業活動を行っていた留学生が卒業後も継続して起業活動を行うことを希望する場合、
在留資格「特定活動」による最⾧2年間の在留が認められる可能性があります。
具体的な要件については、入管の公式サイトにてご確認ください。
参考:本邦の大学等を卒業した留学生による起業活動に係る措置について|出入国在留管理庁
「日本人の配偶者等」「定住者」「永住者」「永住者の配偶者等」の在留資格
を得ているなど、経営管理ビザを取得せずに日本で会社を設立する場合は、
バーチャルオフィスの住所で登記を行ってはいかがでしょうか。バーチャルオ
フィスとは法人登記に必要な事業用住所を安価に利用できるサービスで、日本
での起業時に多くの外国人が活用しています。
具体的な料金相場は、契約時に支払う登録料が5,000円~10,000円程度で、月額
利用料は数千円程度です。また、バーチャルオフィスの拠点は銀座や青山、渋
谷、新宿など都心のエリアに多く、ネームバリューの高い立地にビジネス拠点
を設けられることから、起業当初から顧客の信頼を得やすいメリットもありま
す。
ただし、一口にバーチャルオフィスといっても料金やサービス内容、借りられ
る住所の立地はさまざまです。まずは予算や求めるサポート等を明確にしたう
えで、じっくりと比較検討して選ぶとよいでしょう。
外国人留学生が日本で起業し、本格的に経営を行うためには、在留資格を「留
学」から「経営・管理」へと変更する必要があります。ただし、ビジネス経験
のない留学生が卒業後すぐに経営管理ビザを取得することは難しい傾向がある
ため、一度社会人経験を積んでから起業を目指すか、「特定活動」の在留資格
への変更によって起業・経営を行うとよいでしょう。
もし経営管理ビザの取得が不要なら、バーチャルオフィスの住所を活用して手
軽に日本でのビジネス拠点を設けられます。事務所設置のコストを抑えられれ
ば、経済的にゆとりを持った状態で事業活動をスタートできるでしょう。