「経営者が引退する」「後継者がいない」「資金調達が難しい」といった理由で、会社をたたむことを検討している経営者もいるのではないでしょうか。廃業する場合は計画的に手続きを進める必要がありますが、まずは具体的にどのような手続きが必要なのか、いくら費用が発生するのかなどをしっかりと確認したうえで、会社をどうするべきかを慎重に判断することが大切です。
そこで、今回は『廃業』に焦点を当て、手続きの流れや費用を詳しくまとめました。また、「後継者が見つかるまで費用を抑えて会社を維持したい」とお考えの方に向けて、リーズナブルに法人を登記・存続できるバーチャルオフィスについても併せて解説します。
会社をたたむ際には「廃業」や「倒産」といった形で事業を閉じることになりますが、両者は一見似ているようで大きく異なる意味を持ちます。
まず、「廃業」とは主に経営者自身が事業を終わらせることを決定したケースです。後継者が見つからない場合など、資金的な問題以外で事業を終了する意味合いがあります。
一方で、「倒産」とは債務を支払えなくなったことが原因で事業をやめケースのことです。会社を消滅させるために行う「破産」と、会社を存続させることを前提とする「民事再生」の2パターンがありますが、民事再生には債権者の同意を得る必要があるため、中小企業の場合は「倒産=破産」となる傾向がみられます。
法人を廃業するためには「株主総会での決議」「官報への解散公告」「法務局での登記」「税務申告」といった多くの手続きを順に行う必要があるため、手続きが完了するまで数ヶ月程度かかることを想定しておきましょう。
特に時間を要するのが、会社をたたむ旨を国が発行する機関誌「官報」に掲載する「官報への解散公告」です。債権者からの債権申し出の受付に対して最低でも2ヶ月以上の猶予をもたせることが義務付けられているため、すべての手続きが完了するまでにかかる期間は最短でも2ヶ月程度と認識しておくとよいでしょう。
廃業する際に必要な手続きは以下の通りです。
会社の事業を終了するために、以下のような準備を行います。
①解散日を決めた後、従業員・取引先・金融機関など関係者に「廃業のお知らせ」などの書面で告知する
②会社で加入している保険などの解約手続き
③売掛金や未収金、貸付金などの回収
④買掛金や借入金、未払金、従業員への給料の支払い手続き
上記のうち②~④については次の【STEP2. 株主総会での解散決議】の前に実施できなくても、清算前に行えば問題ありません。ただし、計画的に手続きを進められるように前もってスケジュールを立てておくことが重要です。
会社法で定められた解散事由がなければ解散できないため、臨時株主総会を開いて「特別決議」を成立させる必要があります。この特別決議には発行済株式の過半数以上の株主が出席することが求められ、決議されるためには3分の2以上の賛成が必要です。
株主総会にて解散決議が行われた後は、実際に会社をたたむ手続きを行う「清算人」を選任します。一般的には代表取締役が担うケースが多いですが、定款によっては顧問弁護士が就任する場合もあります。
株主総会にて解散決議が行われた日から2週間以内に、法務局にて「解散登記」と「清算人選任登記」を行います。所定の用紙に商号や本店住所、登記の事由などを記載して提出します。
解散の登記が完了したら、税金や保険関係の届け出が必要です。会社設立時に届け出を行った税務署や都道府県税事務所、市区町村役場などの官庁に下記の書類を提出します。
届出先 | 提出書類 |
税務署 | 異動届出書、事業廃止届出書(消費税)、給与支払事務所等廃止届、青色申告の取りやめの届出書 など |
都道府県税事務所 ※東京23区は不要 |
異動届出書 |
※会社を解散した旨の記載がある登記事項証明書の添付が必要
※建設業や旅館業など許認可を受けている場合、許認可庁に解散の届け出が必要な場合もあり
会社の廃業にあたって従業員を解雇する場合は、社会保険や雇用保険の手続きも行います。届出先と提出書類は以下の通りです。
届出先 | 提出書類 |
日本年金機構 | 健康保険、厚生年金保険適用事業所全喪届、被保険者資格喪失届 |
ハローワーク | 雇用保険被保険者資格喪失届、雇用保険被保険者離職証明書、雇用保険適用事業所廃止届 |
労働基準監督署 | 確定保険料申告書・労働保険料還付請求書 など |
※会社を解散した旨の記載がある登記事項証明書の添付が必要
会社を閉鎖する前には、債権者からの債権の申し出を呼びかけることが必要です。
国が発行している機関紙の「官報」や個別の催告を通じて、会社を解散させる旨を広く知らせます。
なお、解散広告では2ヶ月以上の猶予を設ける必要があるため、解散広告から2ヶ月後以降に次のSTEPに進むことが可能です。
会社を廃業する際には決算書類を2度作成する必要があり、1度目は解散時に準備します。その時点での「財産目録」と「貸借対照表」を作成し、株主総会の承認を得なければなりません。
次に、残った財産や債務の整理を行いますが、会社の貸借対照表で純資産額がマイナスになった場合には自主的な廃業はできません。廃業ではなく倒産手続きを行う必要があります。
決算書類を作成したら、解散事業年度(事業年度開始日から解散日まで)の確定申告を行います。ちなみに解散日以降も、会社の廃業が完了するまでの間は1年ごとに確定申告が必要です。
続いて、会社の債権を回収して債務を支払います。資産において現金化できるものはすべて売却して現金化し、債務の弁済に充てます。
すべての資産・負債を清算した後に残った残余財産を債権者や株主に分配します。
清算結了後に「決算報告書」を作成し、再び株主総会にて承認を得る必要があります。承認を得られれば、法人登記記録が消滅します。
株主総会で決算報告書が承認されてから2週間以内に、法務局にて「清算結了登記」を行います。受領されると、会社の登記簿が閉鎖されます。
清算結了登記の完了から1ヶ月以内に、解散日から清算結了日までの確定申告書を作成して提出します。
税務署および自治体に「清算結了届」を提出し、受領されれば会社をたたむための工程はすべて完了です。
会社を廃業する際には解散・清算人選任登記や清算結了登記(2回)が必要で、それぞれにおいて以下の登記費用が発生します。
・解散登記の登録免許税:3万円
・清算人選任登記の登録免許税:9,000円
・清算結了登記:2,000円
・官報公告費用:約3万3,000円
もしも登記手続きを専門家に依頼した場合、専門家へ支払う費用も別途発生します。たとえば会社の廃業に必要な手続きをすべて依頼した場合は7万円ほどかかるほか、税理士に確定申告を依頼した場合は+αで費用がかかるケースが一般的です。
ここまで会社を廃業する場合の手続きや費用について解説しましたが、なかには「後継者が見つかるまでの間、コストを最小限に抑えて何とか法人を維持したい」とお考えの方もいるでしょう。そのような場合におすすめしたいのが、事業用の住所をリーズナブルにレンタルできる「バーチャルオフィス」です。
法人の登記先をバーチャルオフィスに変更することで、以下のようなメリットがあります。
事務所用に賃貸物件を借りている場合は、法人の登記先をバーチャルオフィスの住所に移転することで大幅にコストカットできます。
というのも、バーチャルオフィスの月額利用料は数千円程度が相場となっており、賃貸物件の家賃と比較すると圧倒的に少ない費用負担で済みます。また、契約時にかかる登録料も5,000円~1万円程度とリーズナブルなので、手軽に導入できる点も大きな魅力です。
このように費用を大きく抑えて利用できるため、もしもすぐに後継者が見つからない場合はバーチャルオフィスを活用することをおすすめします。
なかには「ひとまず自宅の住所に登記を移して後継者を探そう」とお考えの方もいるかもしれませんが、自宅の住所で法人登記を行うと『プライバシーのリスク』がある点に注意が必要です。
実は法人登記の際に申請する住所は「公開情報」に指定されており、国税庁の法人番号公表サイト等で誰でも閲覧可能です。そのため、もしも自宅の住所で法人登記を行うとその住所が広く公開されてしまい、場合によっては不審者が訪ねてきたり、住所が悪用されたりといったトラブルに見舞われる恐れがあります。
バーチャルオフィスの住所で法人登記を行えば、そういった事態に陥るリスクはありません。後継者が見つかるまでの間、高い安全性のもとで会社を存続させることが可能です。
もしもバーチャルオフィスの住所で法人登記を行っている会社を閉鎖する場合は、解約手続きにあたって「閉鎖事項証明書」の提出を求められるケースが多いです。
その場合は解約完了までに最低でも2ヶ月ほどかかるため、期間に余裕を持って廃業手続きを進めていきましょう。
会社をたたむ際にはさまざまな手続きや決議などが必要で、登記申請費用をはじめ、専門家に依頼する場合はさらに費用がかかります。具体的に解散準備を進めてしまうと後戻りができないため、まずは「本当に会社をたたむ必要があるのか」を慎重に検討することが大切です。
ひとまずバーチャルオフィスの住所に移転手続きを行って後継者探しを行うなど廃業以外の選択肢も探りながら、会社の未来と向き合ってみてはいかがでしょうか。