法人の登記先住所を移転する際には、開業時に登記申請を行った法務局にて「移転登記」を行う必要があります。その際、移転先住所がその法務局の管轄内であるか、それとも管轄外であるかによって手続き内容や費用などが異なるため、細かな概要について事前にしっかりと把握しておくことが大切です。
そこで、今回は移転登記手続きの基礎知識を詳しくまとめました。さらには、経費削減を目的として移転を検討している方におすすめしたい「バーチャルオフィス」の魅力についてもあわせてご紹介します。
ぜひ参考にしながら、移転登記をスムーズに進めていきましょう。
法務局に出向いて移転登記手続きを行う前に、まずは「定款の変更が必要かどうか」を確認しましょう。定款には「本店所在地」が記載されており、記載内容によっては定款を書き換える必要があるためです。
そもそも定款においては最小行政区画までの記載で問題ないことから、具体的な住所ではなく「東京都中央区」といった市区町村のみの記載であるケースも多々みられます。その場合、同じ中央区内での移転であれば定款の変更は不要ですが、中央区以外の地区町村へ移転する場合は定款を変更しなければなりません。
以下にいくつかの例をご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
例1)
定款記載内容:「本店所在地は、東京都中央区とする」
移転先:東京都中央区
定款変更の必要性:不要
例2)
定款記載内容:「本店所在地は、東京都中央区とする」
移転先:東京都港区
定款変更の必要性:必要
例3)
定款記載内容:「本店所在地は、東京都中央区日本橋〇丁目ー〇ー〇〇〇ビル〇F とする」
移転先:東京都中央区銀座3丁目〇ー〇
定款変更の必要性:必要
もし定款の変更が必要な場合は、「株主総会の特別決議」によって株主の承認を得る必要があります。株主総会の特別決議とは、議決権を持つ株主の過半数が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成によって行われる決議のことです。
なお、移転先・移転日については株主総会、または取締役会にて決定します。そのため、取締役会を開催して具体的な移転先・移転日を決定する場合は、株主総会の後に取締役会の招集が必要です。
法人の移転登記時に必要な手続きと費用は、移転先が「法務局管轄内であるか、それとも管轄外であるか」によって異なります。まずは以下の表をご参照ください。
管轄内 | 管轄外 | |
申請先法務局 | 現在の法務局 | 旧(移転前)法務局 |
登録免許税 | 3万円 | 6万円 |
移転先が旧本店所在地と同一の法務局の管轄である場合は、管轄の法務局にて本店移転登記の申請手続きを行います。その際に支払う登録免許税は「3万円」です。
一方で、移転先が旧本店所在地とは別の法務局の管轄である場合は、旧法務局にて本店移転登記の手続きを行います。旧法務局に新・旧2件分の書類を提出すれば新所在地に職権で転送してもらえますが、新・旧それぞれの手続きが発生するため、登録免許税は2件分の「6万円」です。
ちなみに、登記申請は「移転日から2週間以内」に行う必要があります。もし期限内に移転登記手続きを行わなかった場合は、会社法の定めに従って100万円以下の過料の納付を命じられる恐れがあるため注意しましょう。
ここでは、法人の移転登記時に法務局へ提出する書類を「管轄内」と「管轄外」のケース別にご紹介します。
・移転登記申請書(登録免許税3万円分の収入印紙を貼付)
・取締役会議事録(取締役会非設置会社の場合は「取締役の決定書」)
・委任状(代理人に申請を依頼する場合)
※定款変更がある場合は「株主総会議事録」と「株主リスト」を添付
・株主総会議事録
・取締役会議事録(取締役会非設置会社の場合は「取締役の決定書」)
・定款
・株主リスト
・委任状(代理人に申請を依頼する場合)
・印鑑(改印)届書
・印鑑カード交付申請書
※取締役会の有無や定款に記載されている内容によって必要書類が変わる場合もあり
本店の移転登記を行ったら、法務局以外にも以下のような場所に届出を行う必要があります。各関連機関における必要書類と提出期限は以下の通りです。
必要書類 | 申請期限 |
・健康保険・厚生年金保険適用事業所所在地 ・名称変更(訂正)届 ・登記事項証明書 |
移転日から5日以内 |
必要書類 | 申請期限 |
・労働保険名称 ・所在地等変更届 ・労働保険関係成立届 |
移転日の翌日から10日以内 |
必要書類 | 申請期限 |
・雇用保険事業主事業所各種変更届 ・給与支払者(特別徴収義務者)の所在地 ・名称変更届 ・登記事項証明書 |
移転日の翌日から10日以内 |
必要書類 | 申請期限 |
・異動届 ・所得税・消費税の納税地の異動に関する届出書 ・給与支払事務所等の開設・移転 ・廃止届出書 ・登記事項証明書 |
移転日から速やかに |
移転登記にあたって「オフィスレンタルにおける初期費用やランニングコストを抑えたい」とお考えなら、バーチャルオフィスを利用されてはいかがでしょうか。
バーチャルオフィスとはオフィスの基本的な機能を備えた仮想の事務所のことで、特に自宅を拠点にビジネス活動を行うなど「物理的なオフィススペースを必要としない方」におすすめのサービスです。
バーチャルオフィスには、主に以下のような特徴があります。
・経費を軽減できる
・プライバシーを保護できる
・一等地での登記が可能
・ミーティングスペースを借りられる
具体的にどのような点が魅力的なのか、ひとつひとつチェックしていきましょう。
バーチャルオフィスにおける最大のメリットといえるのが、「経費を軽減できること」です。
一般的なオフィス物件を借りる場合、敷金・礼金や保証金といったまとまった費用がかかります。また、毎月の賃料や光熱費といったランニングコストも大きな負担となりやすく、そういった経費の圧迫によって経営に支障が出るケースも少なくありません。
一方で、バーチャルオフィスの場合は「5,000円~10,000円程度の登録料」と「月に数千円程度の利用料」のみでオフィス機能をレンタルできます。少ない費用負担で移転でき、余裕を持って事業活動を進められるでしょう。
自宅を拠点に事業活動を行う場合、「自宅の住所に移転登記したい」とお考えの方もいることでしょう。しかし、自宅の住所で移転登記を行うことは、プライバシー保護の観点からおすすめではありません。
というのも、本店所在地として申請した住所は「公開情報」に指定されており、国税庁の法人番号公表サイト等で誰でも閲覧可能となります。その住所を見た見知らぬ誰かが突然訪ねてきたり、場合によっては何らかの犯罪に住所が利用されたりといった恐れがあるため、自宅の住所を移転登記先として申請することは避けるほうがよいでしょう。
バーチャルオフィスの住所を使用すれば、そのようなリスクに不安を感じる必要はありません。ご自身や家族のプライバシーが保護された安全性の高い環境において、事業活動に集中できます。
バーチャルオフィスを利用すると、都心の一等地や人気エリアの住所をリーズナブルに借りられます。本店所在地は会社のイメージや信用力などを大きく左右するため、「できるだけ印象の良い住所に移転したい」とお考えの方におすすめです。
バーチャルオフィスの運営会社によっては、住所やFAX番号といった機能だけでなく、会議室などの物理的なスペースをレンタルできる場合もあります。特に自宅を拠点に活動する場合はクライアントとのミーティング場所に悩むケースが多いため、必要に応じてスペースを借りられるサービスは大いに役立つことでしょう。
法人の登記先を変更する際には「移転登記」の手続きを行う必要があるほか、年金事務所や労働基準監督署、税務署等に各種書類を提出するなど、やるべきことがたくさんあります。それぞれの手続きに期限が設けられているため、期日内にきちんと申請できるように段取りよく準備を進めていきましょう。
もしオフィススペースが不要で「なるべく費用を抑えたい」とお考えなら、バーチャルオフィスへの移転がおすすめです。バーチャルオフィスの住所でも移転登記は問題なく行えるため、ぜひ検討してみてください。