事業拡大や事業承継を目指すうえで、有効な手段となる「M&A(エムアンドエー)」。近年におけるM&Aの成功事例は数多く存在することから、経営戦略の実現に向けてM&Aを視野に入れている経営者の方もいることでしょう。
しかし、一口にM&Aといってもさまざまな手法があり、それぞれ特徴が大きく異なります。まずはM&Aを行う目的を明確にしたうえで、ご自身に合ったスタイルで慎重に遂行することが大切です。
そこで、今回は「M&A」をテーマに、譲渡(売り手)企業側と譲受(買い手)企業側の双方における目的や、各種手法の特徴について詳しくまとめました。さらには、会社または経営権の取得時に利用すると便利な「バーチャルオフィス」の魅力についてもあわせてご紹介します。
M&Aについて検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてみてください。
M&Aは「Mergers and Acquisitions」の略称です。直訳すると「合併と買収」ですが、一般的には「会社または経営権の取得」を意味します。
一昔前までは、M&Aと聞くと「敵対的買収(買収対象企業の経営陣や株主の同意を得ずに行う企業買収)」のようなネガティブなイメージが浸透していました。
しかし、近年では事前に経営陣や株主の同意を得て買収を行う「友好的買収」が主流となりつつあり、中小企業・大企業を問わず幅広く活用されています。
次に、M&Aを行う主な目的について、譲渡(売り手)企業側・譲受(買い手)企業側の2つの立場に分けて解説します。
譲渡企業側におけるM&Aの目的は、主に下記の通りです。
・投資回収・現金化までの時間の短縮
・事業承継・後継者対策
・創業者利益の確定
・事業の取捨選択
・事業再生
それぞれの目的について、以下で詳しく見ていきましょう。
研究や設備の導入などで事業に投資してきた資本については、本来は回収までに多大な時間を要します。しかし、M&Aを行えば将来的な予測も含めて会社を買い取ってもらえるため、投資回収・現金化までの時間を大幅に短縮することが可能です。
後継者不在の状態で事業承継を行いたい場合にも、M&Aは大変有効です。「後継者がいないから…」と事業をたたんでしまうと顧客や取引先、従業員に多大なる迷惑がかかりますが、M&Aによって経営権を売却することで買収先の企業へと事業を引き継げます。
また、事業内容だけでなく顧客や取引先、従業員も引き継いでもらえれば、これまで培ってきたマーケットや雇用関係の継続も可能です。
M&Aを行うことにより、IPO(株式公開)と比較すると創業者利益(創業者が保有している株式を売却することで得られる利益)を確定するまでの時間を大幅に短縮できます。売却条件が決定して契約が成立すればすぐに株式が現金化されるため、創業者利益を「現金化して」実現したい場合に非常に有効です。
「より筋肉質な経営を目指したい」と考えて事業の取捨選択を検討している場合にも、M&Aは多く活用されています。M&Aによって利益が出にくい事業を売却すれば、利益が出やすい事業に資源を集中させられるためです。
事業再生も、M&Aを行う主な目的のひとつです。自力再生ができない場合に事業譲渡や会社分割、合併、第三者割当増資の引受等などの手段を取り入れることで、第三者からの支援による事業再生を目指せます。
一方で、譲受(買い手)企業がM&Aを行う目的は主に下記の通りです。
・事業拡大
・新規事業の開拓
それぞれの目的について、以下で詳しく解説します。
事業拡大は、譲受(買い手)企業がM&Aを行う最大のメリットといっても過言ではありません。たとえば既存事業とは異なるエリアで営業活動を行う同業他社を買収すれば、スムーズなシェア拡大を見込めます。
M&Aによって既存の企業を買収すれば、低リスクかつスピーディーに新規事業に参入できます。人材やノウハウも効率的に入手でき、円滑に経営を進められるでしょう。
M&Aにおいて活用される機会の多い手法は、下記に挙げた9つです。
1. 株式譲渡
2. 事業譲渡
3. 会社分割
4. 株式交換
5. 合併
6. 第三者割当増資
7. 資本業務提携
8. 資本参加
9. 合弁会社設立
実際に動き出す前にまずは各手法の特徴をしっかりと認識し、どの手法が自社のケースにマッチしているかを慎重に見極めましょう。
株式譲渡とは、株式の買収によって企業の経営権を獲得するM&A手法です。株式譲渡での対価には現金が用いられており、売り手側の株主が、買い手側に対して50%超(一般的には100%)の株式を譲渡することで経営権が承継されます。
取締役会の決議のみの簡単ステップで買収できることから、9つあるM&Aの手法の中で最も多く活用されています。ただし、会社をまるごと取得する包括承継であるため、負債などもすべて引き受けてなければならない点が大きなリスクです。
事業譲渡とは、売り手企業が持つ事業や資産、権利等を選別して売買取引するM&A手法です。買い手企業としては必要な事業や資産のみを買収できるため、株式譲渡のように売り手企業が抱える負債などを引き受ける必要はありません。
ただし、包括承継ではないことから、事業の許認可取得や従業員との雇用契約締結といった手続きを一から行うことが必要です。また、事業譲渡によって得た利益には法人税が課されることも懸念点として挙げられます。
会社分割とは、売り手企業の事業部門を資産・権利・許認可・人材なども含めてまるごと切り離し、それを買い手企業が承継するM&A手法です。切り離された事業を既存の会社にて承継することを「吸収分割」、新しく設立する会社が承継することを「新設分割」といい、買い手は経営権取得の対価として自社株式を用いることもできます。
「吸収分割」は先述の「事業譲渡」と混同されやすい傾向がありますが、会社分割は包括承継であり、事業譲渡は個別承継であることが大きな違いです。つまり、会社分割では許認可や雇用契約なども引き継ぐことができますが、該当事業が負債を抱えていた場合はその負債も引き継がなければなりません。
株式交換とは、完全親子会社になることを前提として買い手企業が売り手企業の全株式を取得し、その対価として買い手企業の株式を交付するM&A手法です。つまり、売り手企業(子会社)の株主は買い手企業(親会社)の株主に加わるため、買い手企業の株主構成は大きく変化します。
メリットとしては、対価のために資金を用意する必要がないこと、株主総会の特別決議において承認を得られれば遂行できることなどが挙げられます。ただし、株式譲渡と比較すると手続きが複雑である点に注意が必要です。
合併とは、複数の企業をひとつに統合するM&A手法です。新設された会社が存続会社となる「新設合併」と、既存の会社が複数集結して行われる「吸収合併」の2種類があります。
企業をまるごと統合するため、資産・権利・許認可・人材といったカテゴリごとに手続きを行う必要がないこと、さらには対価を株式で払えることから資金の準備が不要であることなどが主なメリットです。一方、包括承継であるため債務なども引き継がなければならないリスクがある点や、元企業の株主同士で経営戦略の差異等による対立が生まれやすい点などがデメリットとして挙げられます。
第三者割当増資は、特定の第三者に対して売り手企業の新株式、あるいは所有する自社株式を交付するM&A手法です。買い手企業が取得する株式の割合が、売り手企業の経営に与える影響力を大きく左右します。
手続きが容易であるため遂行しやすいことが主なメリットですが、買い手企業は資金の準備が必要であること、出資比率が低ければ経営にはそれほど関与できないことなどに注意が必要です。
資本業務提携とは、複数の企業同士が経営権に影響を及ぼさない範囲内で「資本の移動」と「業務の協力」の両方を行うM&A手法です。資本の移動には、一般的に先述の第三者割当増資が用いられます。
資本の移動を伴うことから、企業同士が強固な関係を築くことが可能です。経営上のアドバイスや意見を交わしながら効率的に事業強化・拡大を目指せますが、一度資本業務提携を結ぶと解消が難しい傾向があります。
なお、M&Aではありませんが、「業務提携」という手法もあります。複数の企業同士が資本の移動を伴わずに業務のみ協力し合う方法で、資金を準備する必要なく手軽に業務上の協力関係を築くことが可能です。
ただし、資本の移動を伴わないことから提携の解消がしやすく、場合によっては想定していた効果を得られない可能性があります。また、提携先の企業から自社の機密情報が流出する恐れもある点に注意しましょう。
資本参加とは、対象企業の株式を取得することで企業間の関係性を強固にする手法です。資本提携の場合は各企業が互いに株式を取得するのに対し、資本参加は一方の企業のみが株式を取得します。
資本参加においては50%未満(※1)の株式を取得するケースが一般的で、企業の独自性を保つことが可能です。なお、第三者割当増資による資本参加では資金が対象企業に払い込まれるため、成⾧資金の調達を目的として多く活用されています。
(※1)場合によっては数%に留まることもあります
合弁会社設立とは、複数の企業が共通の利益のために共同で会社を設立、または取得する手法です。「ジョイントベンチャー」とも呼ばれており、公正取引委員会の企業結合ガイドラインにおいては「共同出資会社」との名称になります。
なお、合弁会社設立にあたっては既存の会社を用いて株式譲渡や第三者割当増資、吸収分割を経て合弁会社化する方法と、共同新設分割を経て新しく合弁会社を設立する方法の2つのパターンが存在します。複数の企業が協力して出資を行うことから出資リスクを抑えられること、各企業の持つ強みを活かして事業運営を行えることなどが大きなメリットです。
M&Aによって新規の本店所在地を探している場合は、「バーチャルオフィス」を利用されてはいかがでしょうか。バーチャルオフィスとは物理的なスペースを持たない『仮想の事務所』で、本店所在地の住所を手軽に借りられる大変便利なサービスです。
また、下記のようなメリットもあり、費用を抑えて新規事業を始めたい方や、自宅を拠点に事業を行いたいけれどプライバシー面に不安がある方などに向いています。
・賃貸物件をレンタルするよりもリーズナブル
・自宅の住所を「本店所在地」として使用するよりも安全性が高い
・信頼性の高い都心一等地の住所を利用できる
具体的にどのような魅力があるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
もし「新規事業と既存事業の住所を分けたい」、あるいは「自宅を拠点に新規事業を展開したい」などの理由で新たに物理的なスペースを設ける必要がない場合は、リーズナブルにレンタルできるバーチャルオフィスがおすすめです。登録料や利用料は運営会社によって異なりますが、一般的には「5,000~10,000円程度の登録料」と「数千円程度の月額料」にて利用できます。
一方、賃貸のオフィス物件を借りる場合は、契約時に敷金・礼金・仲介手数料といったイニシャルコストが発生するほか、家賃や光熱費といった高額なランニングコストを払い続けなければなりません。バーチャルオフィスを利用するほうが大幅に費用を抑えられるため、なるべく少ない資金で新規事業の本店所在地を設けたい場合はぜひ検討するとよいでしょう。
自宅を拠点に新規事業を運営する場合、自宅の住所で登記申請を行うことを検討している方もいるかもしれません。しかし、プライバシー保護の観点から、自宅の住所での法人登記は避けることをおすすめします。
というのも、本店所在地として登録した住所は国税庁の「法人番号公表サイト」等に記載されるため、自宅の住所を申請した場合はその住所が公開されてしまいます。場合によっては自宅住所を悪用されたり、自宅を特定されて嫌がらせを受けたりと、自分や家族のプライバシーが脅かされるリスクがあることは否めません。
その点、バーチャルオフィスの住所で法人登記を行えば、必然的にバーチャルオフィスの住所が本店所在地として掲載されます。自宅住所の公開によるリスクについて気を病むことなく、安心感を持って事業運営に集中できるでしょう。
信頼性の高い住所を利用できることも、バーチャルオフィスを利用するメリットのひとつです。バーチャルオフィスの拠点は銀座や渋谷、青山、新宿といった都心一等地に多く設けられており、そのような有名な住所に本店所在地があると「経営が安定していて、信頼できそう」といった好印象につながる傾向があります。
ちなみに、そういった都心一等地の住所の賃貸物件を借りる場合はかなり高額なイニシャルコスト・ランニングコストがかかるため、M&Aという大規模な経営手法の遂行時に契約することはリスクが大きいでしょう。バーチャルオフィスならリーズナブルな価格で一等地の住所を利用でき、費用を抑えつつビジネス活動を有利に進められます。
M&Aは企業の成⾧戦略として有効な手段であり、特に「事業拡大や事業承継を効率的に行いたい」とお考えの経営者におすすめです。ただし、株式譲渡や事業譲渡、会社分割といったさまざまな手法があるため、まずはM&Aを行う目的を明確にしたうえで「どの手法が自社に合っているのか」を慎重に検討するとよいでしょう。
もしM&Aによって新規事業の本店所在地を設ける場合はぜひバーチャルオフィスを活用し、リスクを抑えた効率的な経営を目指してみてください。