フリーランス(個人事業主)として働いている方のなかには、法人化すべきかどうかお悩みのケースもあるでしょう。法人化によって節税効果や社会的信用の向上などを期待できる一方で注意したいデメリットもあるため、ご自身に適した選択肢かどうかを慎重に見極めることが大切です。
そこで、今回はフリーランスの方が法人化するメリット・デメリットを詳しく解説しながら、適切なタイミングや必要な手続き手順をまとめました。また、法人化に伴って「リーズナブルに本店所在地を設けたい」とお考えの方に向けて、手軽に事業用拠点を設けられるバーチャルオフィスについてもあわせてご紹介します。
法人化に興味をお持ちの方は、ぜひ参考にしてみてください。
「法人化」とは、フリーランスとして事業活動を行っている方が会社を設立し、「法人」としてその事業を引き継ぐことを指します。
そもそもフリーランスと法人の最大の違いといえるのが、「法人登記の有無」です。フリーランスとして事業活動する場合は登記不要ですが、会社を立ち上げる場合は法務局での登記申請が必要となります。
また、フリーランスと法人では支払う税金も異なります。具体的には、フリーランスであれば所得税・個人住民税・個人事業税、法人であれば法人税・法人住民税・法人事業税などです。
そのほかにもさまざまな違いがあるため、フリーランスのまま事業活動を行うのか、それとも法人化して一企業として活動していくのかは、ご自身の事業状況等を踏まえたうえでじっくりと検討する必要があります。
フリーランスが法人化することで得られるメリットは、主に次の4点です。
・節税効果を期待できる
・リスクが分散される
・社会的信用度が高まる
・引退等に伴う事業継承がしやすい
具体的にどのような魅力があるのか、以下で詳しく見ていきましょう。
フリーランスが法人化するにあたってまず注目したいメリットが、税金の負担を軽減できることです。その根拠としては、下記の4つの理由が挙げられます。
フリーランスが支払う所得税は、所得が多ければ多いほど高い税率が課せられるシステムで、最高税率は45%です。それに対して法人が支払う法人税の税率は最大23.2%であることから、事業利益が大きくなればなるほど法人化のメリットを実感できます。
フリーランスが一定の条件を満たして法人化した場合、消費税の納税が最大2年間免除されます。詳しい条件については以下をご確認ください。
公式:国税庁「No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6531.htm
フリーランスが法人化すると、経費として計上できる範囲が広くなることも大きなメリットです。
フリーランスの場合は計上できる経費が限られており、たとえばマイカーを事業活動に使用していても事業用の経費として事業所得の控除対象にすることはできません。事業用と家庭用の経費を切り離すことが難しく、マイカーのようにプライベートでも使用している場合は「家庭用」とみなされることが多いためです。
それに対して、法人の場合は事業活動に関する支出のすべてを経費として計上できます。事業活動にも使用するマイカーのガソリン代や自宅兼オフィスにおける水道光熱費等も事業用の経費にできるため、法人所得の軽減に繋がり節税効果を得られます。
なお、法人化する場合は経営者自身の収入や退職金も経費として計上可能です。法人であれば、経営者自身の収入は「会社から受け取る役員報酬」、退職金は「会社の損金」といった形で計上できることから、全体所得が減って節税に繋がります。
事業の経営状況によっては税法上の所得が赤字になることもありますが、法人の場合はその欠損金を最大10年間繰り越すことが可能です。繰り越された欠損金は10年間の間に黒字と相殺でき、節税に大きく役立ちます。
ちなみに、フリーランスの場合は欠損金の繰越期間が「翌年以降3年間」しか認められていません。
フリーランスの場合は、経営状況が暗転して取引先への未払い金や税金滞納などが発生した際には個人で責任を負わなければなりません。場合によっては借金をして対応する必要があるほか、最悪のケースとして全財産を失う恐れもあります。
それに対して、法人の場合は出資金額に応じて責任を負う有限責任となるため、個人の資産を失うリスクはありません。事業で失敗しても全財産を失うことはなく、リスクが分散されることは大きな安心感に繋がるでしょう。
法人化によって「会社役員」といった役職が付き、社会的信用が高まることも大きな魅力です。銀行から融資を受ける際の審査で有利になるほか、取引先からの信頼度も高まる傾向があります。
引退等で他者に事業を引き継ぎたい場合、事業を法人化しておくことで事業用口座や資産を法人として引き継ぐことが可能です。事業継承をスムーズに行えるだけでなく、取引先に迷惑がかかることもありません。
上記のようにさまざまなメリットがある一方で、フリーランスが法人化する際には下記のような注意点があります。
・設立コストがかかる
・社会保険に加入する義務が生じる
・税理士費用が発生する
・赤字でも税金の支払義務が生じる
それぞれの詳細は以下の通りです。
法人化にあたっては法務局での登記手続きが必要であり、その際には登録免許税や印紙代が発生します。また、定款作成時に定款認証手数料もかかるため、株式会社であれば25万円程度の設立コストを見積もっておかなければなりません。
また、設立手続きを自力で行うことに不安がある場合は司法書士や行政書士などの専門家に依頼する必要があり、手数料として+10万円ほどかかります。さらに資本金や運転資金も用意することを考慮すると、かなりの額を工面しておくことが求められるでしょう。
フリーランスが法人化すると、すべての従業員が社会保険に加入する必要があります。社会保険には労災保険や雇用保険、厚生年金保険、健康保険、介護保険が該当し、法人はそれらの保険料の半分を負担しなければならない点に注意しましょう。
フリーランスの場合は自力で確定申告することも難しくありませんが、法人化した場合は手続きが煩雑になるため税理士へ依頼するケースが多いです。その際には手数料を支払う必要があり、その分費用負担が大きくなることを認識しておかなければなりません。
フリーランスの際に支払う所得税は、所得が赤字の場合は発生せず、住民税も課税されません。しかし、法人化すると「都道府県民税」や「市区町村民税」の均等割により、たとえ所得が赤字であっても必ず一定金額を納税する必要がある点に注意が必要です。
フリーランスが法人化を検討する際には、「節税」の観点から最適な時期を見極めることをおすすめします。具体的には下記の2つのタイミングを目安にすると、法人化によるメリットを実感しやすいでしょう。
先述の「フリーランスが法人化するメリット」の【理由2:消費税の納税が最大2年間免除されるため】でご紹介したように、フリーランスの場合は年間売上高が1,000万円を超えた年の2年後からは消費税の納税義務が発生します。一方で、法人の場合は設立して初めの2年間は消費税の納税が免除されることから、年間売上高が1,000万円を超えたタイミングで法人化すると最大2年間の免税期間を確保することが可能です。
ただし、法人設立時の資本金が1,000万円を超える場合、設立初年度から消費税の納税義務が発生する点に注意しましょう。
フリーランスに課税される所得税は、所得に応じて税率が最大45%まで変動する仕組みになっており、「所得が800~900万円ほどに達したタイミング」が法人化に適した時期といわれています。その根拠となる所得税と法人税の税率については下記の表をご確認ください。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
所得金額 | 税率 |
---|---|
8,000,000円 以下 | 15% |
8,000,000円 超 | 23.20% |
参考:国税庁「No.5759 法人税の税率」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
上記の通り、普通法人における法人税の税率は、所得が800万円以下の場合は15%、それ以上は23.2%です。さらに法人の場合は地方税も支払う必要がありますが、地方税を含めても36%ほどとなります。
一方、所得税の税率は900万円を超えると33%となるため、フリーランスとしての所得が800万円~900万円ほどに達したタイミングに法人化すると節税に繋がるでしょう。
続いては、フリーランスが法人化する際の手続き手順をご紹介します。一般的には次のような流れで申請を進めます。
まずは「定款」を作成します。定款とは会社における基本的な規約を記載したもので、定めるべき主な項目は以下の通りです。
・会社の形態(株式会社や合同会社、一般社団法人など)
・商号名(会社名)
・本店所在地
・資本金
・社員構成
・事業目的
・事業年度 など
なお、株式会社の場合は定款の作成後に公証役場で認証を受けます。また、代表者の印鑑や資本金の準備も行い、次のステップである登記申請に備えます。
定款・資本金の振り込みを行った個人口座の通帳コピー・印鑑証明・法人登記申請書などの必要書類を持参し、管轄の法務局にて設立登記の申請を行います。
また、管轄の税務署へ法人化に関する下記の書類を申請するとともに、フリーランスの廃業に伴う「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。
・法人設立届出書
・青色申告の承認申請書
・給与支払事務所等の開設届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
法人口座を開設することも、法人化にあたって大切なステップのひとつです。審査に時間を要することもあるため、早めに申請しておくとよいでしょう。
なお、法人口座開設にあたっては登記事項証明書の提示が必要です。
役員報酬は会社設立から3か月以内に定める必要があるため、なるべく早めに決定しておきましょう。役員報酬は社会保険料の額に影響することから、現実的な売上を考慮しながら無理のない金額に設定することがポイントです。
ちなみに、役員報酬の金額は事業年度の途中で変更できない点にも注意が必要です。
年金事務所にて、厚生年金と健康保険への加入手続きを行います。代表者のみの法人でも社会保険への加入義務があるため、必ず申請を行いましょう。
フリーランス時の資産や債務は、下記の方法で移行する必要があります。
・譲渡
・現物出資
・賃貸借契約
資産や債務の移行手続きには税務や法律に関する知識が必要となるため、税理士等の専門家への代行依頼がおすすめです。
法人化を検討している方のなかには、「事業用のオフィスを用意する手間やコストがかかってしまう」と不安を感じている方もいるのではないでしょうか。自宅を拠点に事業活動を行うことも可能ですが、賃貸物件の場合は登記先住所として申請できないケースも多いため注意が必要です。
そこでおすすめしたいのが、事業用の住所をレンタルできる「バーチャルオフィス」です。物理的なワークスペースを必要としない場合に適したサービスで、法人化する際に利用すると下記のようなメリットがあります。
・初期費用やランニングコストを抑えて本店所在地を設けられる
・自宅住所で登記申請するよりも安全性が高い
・都心の住所を手軽に利用できる
・ミーティングスペースを利用できる場合もある
・法人設立手続きをサポートしてもらえる場合もある
それぞれの魅力について、以下で詳しく見ていきましょう。
法人化にあたって賃貸オフィスを契約する場合、家賃の6か月~1年分程度の保証料をはじめ、家賃1か月分相当の礼金や仲介手数料といった高額な初期費用がかかります。一方、バーチャルオフィスの初期費用は5,000円~10,000円程度の登録料のみで、毎月の利用料も数千円程度と大変リーズナブルです。
オフィスの賃貸物件を借りるよりも大幅に費用を抑えて本店所在地を設けられるため、「なるべく少ないコストで法人化したい」とお考えの方はぜひバーチャルオフィスを検討するとよいでしょう。
自宅の形態によっては登記先住所として申請可能な場合もありますが、その場合はプライバシー関連のリスクに注意が必要です。登記時に本店所在地として申請した住所は国税庁の法人番号公表サイト等に掲載されるため、自宅住所の公開によって何らかのトラブルに見舞われる懸念があります。
しかし、バーチャルオフィスの住所で登記申請を行えばバーチャルオフィスの住所が掲載されることから、そういったリスクを気に病む必要はありません。
経営者自身や家族のプライバシーを守りつつ、安全性の高い環境で事業活動を行えます。
バーチャルオフィスの住所は、銀座や渋谷、新宿といった都心に数多く点在しています。そのようなネームバリューの高い立地にオフィスを構えるとなると多額の費用がかかりますが、バーチャルオフィスなら先述のようにリーズナブルな価格で利用でき、あたかもそこにオフィスが存在しているかのように見せることが可能です。
都心一等地に拠点があると「安定した会社」といった印象を与えられ、ビジネス活動において大変有利に働くでしょう。
「自宅兼オフィスで法人化したいけれど、ミーティングを自宅で行うのはちょっと…」とお悩みなら、ミーティングスペースのレンタルを行っているバーチャルオフィスを利用するとよいでしょう。運営会社によっては一時利用できるスペースをオプションで貸し出しているところもあり、クライアントとの打ち合わせ等に便利です。
バーチャルオフィスによっては、オプションで法人設立手続きをサポートしているところも存在します。法人化にあたっては煩雑な手続きが多く発生するため、自力での対応に不安を感じる場合はぜひ利用するとよいでしょう。
フリーランスの法人化には、「節税効果を期待できる」「社会的信用度が高まる」などのメリットがあります。目安としては、フリーランスにおける事業の年間売上高が1,000万円を超える、あるいは課税所得が800~900万円ほどに達するタイミングで法人化を検討するとよいでしょう。
ただし、法人化にあたっては設立コストが発生するほか、さまざまな準備や手続き等の手間もかかります。まずはご自身の経営状況をしっかりと把握したうえで、法人化が得策になるかどうかを慎重に判断しましょう。