M&Aにおいて活用される機会の多い手法は、下記に挙げた9つです。
- 1. 株式譲渡
- 2. 事業譲渡
- 3. 会社分割
- 4. 株式交換
- 5. 合併
- 6. 第三者割当増資
- 7. 資本業務提携
- 8. 資本参加
- 9. 合弁会社設立
実際に動き出す前にまずは各手法の特徴をしっかりと認識し、どの手法が自社のケースにマッチしているかを慎重に見極めましょう。
1. 株式譲渡
株式譲渡とは、株式の買収によって企業の経営権を獲得するM&A手法です。
株式譲渡での対価には現金が用いられており、売り手側の株主が、買い手側に対して50%超(一般的には100%)の株式を譲渡することで経営権が承継されます。
取締役会の決議のみの簡単ステップで買収できることから、9つあるM&Aの手法の中で最も多く活用されています。
ただし、会社をまるごと取得する包括承継であるため、負債などもすべて引き受けてなければならない点が大きなリスクです。
2. 事業譲渡
事業譲渡とは、売り手企業が持つ事業や資産、権利等を選別して売買取引するM&A手法です。
買い手企業としては必要な事業や資産のみを買収できるため、株式譲渡のように売り手企業が抱える負債などを引き受ける必要はありません。
ただし、包括承継ではないことから、事業の許認可取得や従業員との雇用契約締結といった手続きを一から行うことが必要です。
また、事業譲渡によって得た利益には法人税が課されることも懸念点として挙げられます。
3. 会社分割
会社分割とは、売り手企業の事業部門を資産・権利・許認可・人材なども含めてまるごと切り離し、それを買い手企業が承継するM&A手法です。
切り離された事業を既存の会社にて承継することを「吸収分割」、新しく設立する会社が承継することを「新設分割」といい、買い手は経営権取得の対価として自社株式を用いることもできます。
「吸収分割」は先述の「事業譲渡」と混同されやすい傾向がありますが、会社分割は包括承継であり、事業譲渡は個別承継であることが大きな違いです。
つまり、会社分割では許認可や雇用契約なども引き継ぐことができますが、該当事業が負債を抱えていた場合はその負債も引き継がなければなりません。
4. 株式交換
株式交換とは、完全親子会社になることを前提として買い手企業が売り手企業の全株式を取得し、その対価として買い手企業の株式を交付するM&A手法です。つまり、売り手企業(子会社)の株主は買い手企業(親会社)の株主に加わるため、買い手企業の株主構成は大きく変化します。
メリットとしては、対価のために資金を用意する必要がないこと、株主総会の特別決議において承認を得られれば遂行できることなどが挙げられます。ただし、株式譲渡と比較すると手続きが複雑である点に注意が必要です。
5. 合併
合併とは、複数の企業をひとつに統合するM&A手法です。新設された会社が存続会社となる「新設合併」と、既存の会社が複数集結して行われる「吸収合併」の2種類があります。
企業をまるごと統合するため、資産・権利・許認可・人材といったカテゴリごとに手続きを行う必要がないこと、さらには対価を株式で払えることから資金の準備が不要であることなどが主なメリットです。
一方、包括承継であるため債務なども引き継がなければならないリスクがある点や、元企業の株主同士で経営戦略の差異等による対立が生まれやすい点などがデメリットとして挙げられます。
6. 第三者割当増資
第三者割当増資は、特定の第三者に対して売り手企業の新株式、あるいは所有する自社株式を交付するM&A手法です。
買い手企業が取得する株式の割合が、売り手企業の経営に与える影響力を大きく左右します。
手続きが容易であるため遂行しやすいことが主なメリットですが、買い手企業は資金の準備が必要であること、出資比率が低ければ経営にはそれほど関与できないことなどに注意が必要です。
7. 資本業務提携
資本業務提携とは、複数の企業同士が経営権に影響を及ぼさない範囲内で「資本の移動」と「業務の協力」の両方を行うM&A手法です。
資本の移動には、一般的に先述の第三者割当増資が用いられます。
資本の移動を伴うことから、企業同士が強固な関係を築くことが可能です。
経営上のアドバイスや意見を交わしながら効率的に事業強化・拡大を目指せますが、一度資本業務提携を結ぶと解消が難しい傾向があります。
なお、M&Aではありませんが、「業務提携」という手法もあります。複数の企業同士が資本の移動を伴わずに業務のみ協力し合う方法で、資金を準備する必要なく手軽に業務上の協力関係を築くことが可能です。
ただし、資本の移動を伴わないことから提携の解消がしやすく、場合によっては想定していた効果を得られない可能性があります。また、提携先の企業から自社の機密情報が流出する恐れもある点に注意しましょう。
8. 資本参加
資本参加とは、対象企業の株式を取得することで企業間の関係性を強固にする手法です。
資本提携の場合は各企業が互いに株式を取得するのに対し、資本参加は一方の企業のみが株式を取得します。
資本参加においては50%未満(※1)の株式を取得するケースが一般的で、企業の独自性を保つことが可能です。
なお、第三者割当増資による資本参加では資金が対象企業に払い込まれるため、成?資金の調達を目的として多く活用されています。
(※1)場合によっては数%に留まることもあります
9. 合弁会社設立
合弁会社設立とは、複数の企業が共通の利益のために共同で会社を設立、または取得する手法です。
「ジョイントベンチャー」とも呼ばれており、公正取引委員会の企業結合ガイドラインにおいては「共同出資会社」との名称になります。
なお、合弁会社設立にあたっては既存の会社を用いて株式譲渡や第三者割当増資、吸収分割を経て合弁会社化する方法と、共同新設分割を経て新しく合弁会社を設立する方法の2つのパターンが存在します。複数の企業が協力して出資を行うことから出資リスクを抑えられること、各企業の持つ強みを活かして事業運営を行えることなどが大きなメリットです。